今回の東日本大震災で被害を受けた被災者の皆さんには、自分の暮らしがこの先どうなるのかは極めて深刻な問題です。
今日はどちらかというと、そんな皆さんをサポートする人がどんな法律をチェックすればいいかなということを書いてみようと思います。
なお、相談を受けたい皆さんが「このページにたどり着いた!」という場合には、このページを読んでみるだけでなくて、各弁護士会が行っている無料相談に行ってみる、電話してみることもお勧めします。
自分で調べるだけだと、どうしてもわからないことが出てくるということもありますし、何より他の人に自分の悩みを聞いてもらう事自体、意外と安心するものなんです。「弁護士」なんていうと、ちょっと敷居が高くて相談しにくいなぁとお思いの方もいらっしゃるかもしれません。
でも、大丈夫。今回の震災ではたくさんの弁護士が皆さんに手を差し伸べたくて、少しでも力になりたくてうずうずしてるんです。ですからどうか臆せずに、法律相談だけでなく、あなたの悩みを話してみて下さいね。
日本弁護士連合会のウェブサイトでは災害からの復興支援特別サイトを作っています。各地の相談情報も載っています!
最初に支援制度の全体像をつかみたいときは、内閣府のウェブサイト(「被災者に対する支援制度」)にて概要が記載されたパンフレットをダウンロードしてみるといいです。
http://www.bousai.go.jp/fukkou/kakusyuseido.pdf
このパンフレットでは網羅的に、問題別にどんな制度が使えるのかということが書いてあります。制度の大枠をつかむのには便利です。
とはいえ、個別の相談では、このパンフレットだけでは対応は難しいと思います。
個別の問題に関するQ&Aについても実は様々な情報が入手できます。
新日本法規ではQ&A災害時の法律実務ハンドブックの平成18年度版(改訂中)を、地震に伴う法律問題Q&Aも平成7年度版を商事法務で公開しています。どういった相談が来るのかを含め参考にするとよいでしょう。
Q&A災害時の法律実務ハンドブック
地震に伴う法律問題Q&A
被災者の生活再建に係る法律としては災害救助法、被災者生活再建支援法、災害弔慰金の支給等に関する法律、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(激甚災害法)、罹災都市借地借家臨時処理法(罹災都市法)、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律、権利保全特別措置法が挙げられます。
災害救助法
災害救助法は、一定程度以上の被害を受けた地域に対して、救助に係る費用負担を市町村から都道府県や国に負担させることで市町村が罹災者の救出や炊き出し、住宅の応急修理などに専念できることを趣旨としています。どの地域が適用されるかについては厚生労働省のウェブサイトをみるとよいでしょう。また、実際、その地域の方にどのような救助がなされるかについては、適用基準をそれぞれの自治体で確認してみて下さい。
 
被災者生活再建支援法
被災者生活再建支援法は、一定程度以上の被害を受けた地域の世帯に対して、建物の損壊の程度に応じた支援金の給付をすることを趣旨としています。概要もチェックするとわかりやすいです。被害の認定の方法、基準等についてはこちらを確認しましょう。
災害弔慰金の支給等に関する法律
災害弔慰金の支給等に関する法律では、災害によりご家族を亡くされたご遺族の方への弔慰金や重度の障害を負われた方へのお見舞金の支給のほか、生活の再建に向けての資金を融資する制度も定められています。なお、生活再建のための融資制度はこの法律に限られるものではなく、社会福祉協議会の小口貸付け等を利用することも可能ですし、各自治体でも用意している場合があります。
激甚災害法
東日本大震災は激甚災害に指定されています。
罹災都市借地借家臨時処理法
適用される方針と報じられてからはっきりしないですが、改正の話題もぽつぽつ出てるからその後に適用されるのかもしれません?この法律については、私の前のブログにも説明があります。
災害被害者に対する租税の減免
この辺は税理士さんのブログの方が詳しいと思います。
特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(権利保全特別措置法)
破産手続や免許の更新手続等について特例措置が図られています。
その上、今回の東日本大震災では原発問題も対処すべき重要問題であることから、原子力災害対策特別措置法や原子力損害の賠償に関する法律もおさえておきたいところです。
原子力災害対策特別措置法
 原子力災害対策特別措置法は、災害対策基本法および原子炉等規制法の特別法として制定され、原子力災害時の国の緊急時対応体制等が定められています。先日問題になった出荷制限等はこの法律に基づいて行われたというわけです。
原子力損害の賠償に関する法律
原子力損害の賠償に関する法律は、原子力事業者に原則として無過失・無限の賠償責任を課すとともに、原子力事業者に損害賠償措置を講じさせ、これを超える損害が発生した場合には国が原子力事業者に必要な援助を行うことができるとしています。風評被害への損害賠償もこの法律の枠組みの中で考えることができます。
さて、このような特別な法律ばかりでなく、民法や借地借家法等もこのような災害が起きたことにより法律関係が発生、変更した場合の帰趨を定めています。この場合、過去の震災のケースにおいて判例上どのような取り扱いがなされたかについても合わせて確認しておくことをお勧めします(所有権関係等)。なお、現在では罹災都市法が適用されれば借地借家法の特別法にあたるため注意が必要になります。
住宅、工作物に関する問題のほか、災害時に深刻となりやすいのが雇用問題です。災害時には経営者も労働者も甚大な損害を受け、だからこそ問題も深刻になりがちです。どのような場合に休業手当が支払われるのか等を相談前には確認しておく必要があるでしょう。
失業保険に関する特例措置についてはこちらを。
これまでに説明した法律はその内容や適用要件等について今後改正が加えられることも十分考えら
れます。一度法律を確認した後も引き続き留意が必要です。
新しい改正等に関する情報については内閣府などのウェブサイトなどで入手できるかと思います。
また、このようなウェブサイトでは法律の改正のみならず行政上の取扱いについてもタイムリーに発信していることもあるため、有益な情報を入手することができます。
ネット環境が十分とは言えない被災者の方々に代わって、このようなサービスに通じ、的確に情報提供するのも相談における重要な役割だと思います。
  
被災者の方々への法律相談及び案件の処理においては、弁護士が法的な支援をするのは言うまでもなく、精神的な支えにもなれるような心がけ、気遣いを常に忘れないようにしましょう。
また、弁護士であれば日弁連や各弁護士会が主催する研修を履修することも非常に有益です。研修の日に参加できなかった場合にもEラーニングで講習を受けることができます。詳しくは日弁連の会員サイトの研修のページを見てみて下さい。
災害はいつ、どのようなときにどこで起こるかわかりません。そして今回の東日本大震災はきわめてその被害の範囲が広汎にわたるため、自主避難を含めれば日本全国に被災者の方々がいらっしゃっていると言っても過言ではありません。
ですから、皆が相談に対応できる、ということが大事なのです。
災害は日常生活の法律関係が大きく変動する要素です。このような時こそ弁護士には率先して法的問題の解決に取り組む使命があると思っていますし、その積み重ねの中から立法についても積極的な提案をすることができると思っています。