損害賠償を請求する、実際離婚なんかの家事事件を除けば、この行為が一番普通に生活する人に関係することなのかもしれません。例えば交通事故は保険会社が交渉の窓口になってくれる場合もあり、意識しにくいかもしれませんが、損害賠償に関する示談交渉であることが多いですね。
また、家事事件でも離婚したいというときに「慰謝料請求してやる!」という思いにかられることは珍しいことではありません。
というわけで、ちょっと損害に関するよもやま話を書いてみたいと思います。
「急に夫が(嫁が)出て行ってしまい、寂しい。辛い思いをしているんで慰謝料請求したいです!」
こういうお話をよくお聞きしますし、相手方から言われることもあります。こういう場合、慰謝料を受け取ることはできるでしょうか。
結論から言うと、原則的には難しいです。収入をたくさん得ている当事者が、自分では収入を得ることができないような配偶者を見捨て、何も生活費も払わなければ、病気になっても顧みることもない、ということでもあれば主張はしてみようかなと思いますが、それでも認められるかどうかは細かい事案の経過次第でしょうね。
夫婦には民法上同居の義務があります。でも、その義務があるからと言って、別居している相手を見つけて家に押しかけて義務を履行しろと強制できるか、というとそれはやはり難しい。
自分の生命や身体、人格をどのようにして守るかという問題は同居義務よりも優先順位の高い問題と言えます。別居する理由も、離婚したいと思う理由も人それぞれですが、一緒にいられない、いたくないという人をたとえ配偶者であっても閉じ込めておくことはできないわけです。
いや、向こうが一緒にいられないと思うのは向こうのわがままじゃないか、とお思いになる方もおられるでしょう。
どんな出来事でも、その人の立場、性格、考え方のくせ、あるいは体調でもその出来事の捉え方はまさに十人十色です。自分にとって軽い気持ちで発した言葉が、相手にとっては一生忘れられない心の傷になることだってあるのです。
ですから、配偶者が「わがまま」と評価されるかどうかは、あなたの思いだけでは決められないということなのです。法律で慰謝料を支払うよう決めるっていうことは、当事者が辛かったというだけではなくて、相手の行為が違法なものでなくてはなりません。支払われるのは難しいよというのはまさしくそういうことなのです。
でも一方で、法律で慰謝料は受け取れないけど辛い気持ち=あなたの人生にとって重要ではない、という意味でもないわけです。
配偶者がある日突然いなくなるということは、自分に落ち度があるとわかっているときでさえ、辛いことです。配偶者のみならずお子さんにも会えないとなればなおのことです。落ち度がないと思っていれば、「なぜ?どうして?」という疑問で頭がいっぱいになることもあるでしょう。
自分の気持ちの納得いかない思いを抱えているとなかなか「で、次は自分はどうしたらいいのだろう?」というところまで頭がいかないものです。ご自身だけで抱え込まず、ご自身の気持ちを話せる相手に聞いてもらったり、弁護士に相談して「今、あなたが法律上できること」を一緒にトライしたりしながら、心の傷を少しずつ修復していけるといいですね。