前回に続いて、弁護士の仕事について話をしてみる。前回は建築紛争のお話。今回は法律相談についてのお話。
弁護士の最初の仕事はトラブルになった経緯を知るところから始まる。どこまではお互いの認識が一緒で、どこがずれている、と思われるか。最初は片方、つまり自分のクライアントからの情報を集めることが大半となる。
なので、ここでズレを確認するのは、あくまでも仮定の話であり、実際に相手方の話を聞いてみると仮定の段階ではズレだと思わなかったことがズレていたりすることもある。
そして、同時に経緯を語ってもらう中で、何かそれを裏付ける残骸のような、いわゆる証拠はないかというのを探っていく。クライアントが証拠を持って来てくださる場合も少なくないが、クライアントが思ってもみなかったものが証拠になることもあるし、こちらで収集できる情報もある。
そうしてひとまず仮に組み立てた事実からいうと、どこが法律の問題なのか、どこが事実上争いになっているところかという問題抽出作業がある。この辺がいかにも弁護士の得意なところである。
私は他の弁護士よりは情報収集、特に話を聞くことに時間をかけることが多い。
弁護士が聞きたいこと、つまり法律上の問題を解決するのに聞き取りが必要な事項=クライアントが話したいこととは限らない。むしろ、程度の差こそあれ、2つの範囲はズレている。
なぜかと言えば、クライアントは法律の問題だけを抱えているわけではないことが多いからである。それなりに対立があるからこそ相談があるわけで、気持ちの問題もある。人によっては心身に病を抱えている場合もある。経済状態に苦しんでいて、そこが背景で問題が起きている場合もある。
この手の問題はホイホイと他人には話せないことが多い。また、家族や身近な人物に相談すると心配をかけてしまうということも多い。
だからこそ、クライアントは弁護士に聞いてもらえればいいなと思うのであり、その気持ちもわかるわぁと思い、私は聞くことにしている。だって、自分だったらどこに話せばいいのさ?って思うもの。
この点は今まで弁護士をしていて、割と自分特有のことだということに最近気づいた。他の事務所が30分単位で相談時間を設けている中で60分にしているのはそういうことなのだ。
私の場合は、ここで聞いた内容を前提とした考えうる選択肢と想定されるコスト、最初のアクションと自分の弁護士費用の話をする。すぐ受任する場合もあれば、何日か待つ場合もあるし、家族と相談して決めるという人もいる。別にどのタイミングでも私の仕事の質は変わらない 苦笑
そうとは言え、弁護士なしでさらに紛争が悪化した後にやっぱりお願いします、という場合は別である。前にあった選択肢が狭まっていることも少なくない、つまり聞いた内容とは前提が変わってしまっているからだ。だから、他の弁護士に頼んだというのであれば相性あるからねと思う一方、ただ、時が過ぎた中で考えてますという人がいると、ちょっとそわそわした気持ちになるのだ。